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アフターピルとは、妊娠を望まない性交のあとに、妊娠を避けるために服用する薬です。日本で使われているアフターピルは、ノルレボ錠とプラバノールが配合された中用量ピルの2種類です。
その中で緊急避妊薬として認可されているのは一つだけで、「ノルレボ錠」という薬です。海外では以前から使われていましたが日本では2011年に認可されようやく利用できるようになりました。
値段は定価があるわけではないのでクリニックによって異なり、診察料を含めて1万円から2万円程度となる場合が多いようです。服用が早いほど避妊の確率が高くなり、性交から72時間以内に服用する必要があります。薬を飲むのは1度だけです。
また中用量ピルによる緊急避妊方法(ヤツペ法)もあります。ノルレボ錠が登場する前から緊急避妊用途で用いられてきた薬ですが、緊急避妊以外の用途で処方されることもある薬で流通量が多いため、比較的安価です。性交後72時間以内に1回目を服用し、それから12時間後に2回目を服用する必要があります。
アフターピルは薬局やドラッグストアで販売されていません。そのためどちらのアフターピルも、基本的には産婦人科を受診し、自由診療で処方してもらうことになります。
若い女性は、そもそも産婦人科に行くのが怖いという人もいますし、地方では産婦人科の数が少なく、知人に顔を見られなくないと病院に行くことをためらってしまう人もいます。また仕事を持つ女性なら、仕事を休むのが難しいケースもあるでしょう。
アフターピルを入手するのは、ハードルが高いという現状から、オンライン処方で緊急避妊薬を処方するクリニックも登場しました。このクリニックが処方するのは「ノルレボ錠」よりも服用の対応時間が長い、日本では未認可の薬です。
オンライン処方の場合、薬を郵送しなくてはいけないので72時間以内の服用が必要なノルレボ錠では間に合わないこともあるからです。もちろんこの薬は海外では一般的に服用されている市販薬なので、安全性に問題はありません。
では国としてこうした試験的な動きを見せるクリニックをどう考えているかというと、基本的には賛成はしていません。
アフターピル入手に医師による処方が必要なため起きる問題は、何より本当にほしいときにすぐ手に入りにくいということです。
都心であれば土日や夜間の診察が可能なクリニックもありますが、地方では自分が受診可能な産婦人科が土日や祝日などで休みとなることも多く、病院に行きたくても行けずどんどん避妊率が下がっていく恐怖と戦わなくてはいけません。
また先程紹介したクリニックで、オンライン診察のみでアフターピルを処方してもらうことができても、薬が届くまでの時間はどれほどの不安があるでしょう。
その他の方法でアフターピルを入手するには、OTC化された国から個人輸入で手に入れる方法があります(個人が使う分を輸入するのは法的に問題ありません)が、緊急時に個人輸入の手続きを始めても間に合いませんから、緊急時の入手方法としては不適格となります。
日本でアフターピルを入手するには、さまざまな問題があることがわかります。入手のしにくさから、日本では転売に頼る人もいます。ですが転売は違法ですし、そもそもアフターピルが本物ではない可能性もありますから、個人間での売買は避けましょう。
アフターピルが手に入りにくい日本の現状をお伝えしましたが、ではどれだけの人がアフターピルを必要としているのでしょう。そのヒントとして、人工中絶がどのくらい行われているのかを見ていきます。
女性1000人あたりの中絶率を見ると、決して日本が特出して多いというわけではありませんし、日本では、現在人工中絶の割合は減少してきています。ではなぜ日本は中絶が多いと言われているのでしょうか。それは、妊娠した人の数に対して中絶率が高いからです。
平成29年の中絶件数は164,621件。これを365日で割ると、平均して1日あたり450件ほどの人工中絶が行われている計算になります。[注1]
そして同じく平成29年に生まれた赤ちゃんの数は94万6千人ほど。中絶と出産の時期は異なるし、生まれた赤ちゃんは多胎児もいますがそれを無視して赤ちゃんの数と中絶件数を妊娠した人の数として考えると、妊娠した人のうち15%近くが中絶していることになります。[注2]
だからといって、日本人女性が簡単に中絶しているわけではありません。日本は人工中絶の多さから中絶天国などと言われていますが、人工中絶を行った女性の中で、実際気軽に中絶を行った人のほうが少ないでしょう。
実際には強く後悔したり、赤ちゃんを生んであげられなかったことに長く苦しむ人のほうが多いのです。
どれだけアプターピルが利用されているのかというと、年間11万個程度。対して中絶数は16万件以上です。人工中絶を行う人の全員が妊娠を望まなかったわけではありませんが、その多くはさまざまな理由で妊娠を継続できなかった人たちです。
アプターピルの利用者数よりもはるかに中絶数が多いということは、アプターピル入手のプロセスやアクセスが女性たちの現状に即していないことの現れと言えるでしょう。
実際中絶を経験した人の中には、「もしあの時アフターピルがあったら…」と考えたことがある人も多いのではないでしょうか。アプターピルが薬局などで必要なときに手に入りやすくなれば、望まない妊娠や中絶で心と体に傷を負う女性を減らすことに繋がります。
アフターピルは、女性側の意思で、女性が主体的に使える避妊方法の一つです。避妊が男性に委ねられがちな日本では、いざというときの緊急避妊ができれば中絶そのものは減少するはずです。
先進国では、宗教上の理由で母体に危険がある場合など特定の理由があるケースを除き、人工中絶そのものが禁じられている国も多いですし、アフターピルも医師の処方箋なしで未成年でも手に入れることができるものです。
一般用医薬品として購入できる国は、アメリカやEU諸国など。先進国でアフターピルが購入しにくい日本のほうが実は特殊だと言えます。
では日本でアフターピルがOTC化(市販薬化)されない原因はなんでしょう。日本では、2017年に緊急避妊薬のOTC化が検討されましたが、その時には反対意見が多く見送られました。
厚労省が行った討論会で出たOTC化への反対意見を見ていくと、
などでした。[注3]
日本の性教育がおくれがちなのは事実です。コンドームの正しい利用方法すら理解せず性行為に及ぶカップルはいますし、中には膣外射精を避妊の一種だと勘違いしている人もいるほどです。
ですから、中にはいざというときにはアフターピルがあるからと通常の否認がおろそかになる危険はありますし、妊娠は回避できるからと他の避妊手段を用いない性行為を強制される女性がいないとは限らないでしょう。
ですが、女性の立場から言えば、正しい避妊の知識を持たないのは教育の問題ですし、薬剤師が新しい薬に付いて学ぶのは当然のことだと感じるでしょう。そして何より、悪用する人よりも正しく利用する人のほうが切実に必要としています。
実際このパプリックコメントではOTC化を望む声は9割以上でした。反対意見が重要視され、実際に望まぬ妊娠で体も心も傷付いてしまう女性、今アフターピル必要としている女性の手には届かないというのが現状なのです。
少なくとも妊娠を望まないのにコンドームのない性交を行うためのものではありあません。アフターピルは性交そのものが本位ではなかった場合や、コンドームなど他の避妊方法がうまく行かなかった場合などに用いるものです。
日本では避妊にコンドームを利用するケースが多いため、途中で破れたり外れたり、といったトラブルで求める人が多いようです。実際独身女性だけではなく、結婚した夫婦がこれ以上は育てられないと緊急避妊薬を必要とするケースも多いです。
また男性が避妊に協力的ではない場合もあります。相手が恋人であれ結婚したパートナーであれ、女性が不本意な性交、かつ避妊のなされない性交を強制されてしまうケースはなくなりません。
今アフターピルの入手のハードルが高い現状では、パートナーがいる女性は自分できる避妊方法も合わせて考えていくと良いでしょう。女性が主体的に避妊をする方法はアフターピル以外に低用量ピルや、IUSやIUD、避妊手術などがあります。
定期的に性交渉を行うパートナーがいる人は低用量ピルがおすすめです。日本では避妊目的の低用量ピルは保険適用となりませんし、こちらもアフターピル同様薬局などでは購入することができません。
それでも、コンドームのみでの避妊でいざというときに複数回アフターピルを持ちるよりは安全だと言われていますし、望まない妊娠を避けるには有効な手段です。
中絶については、海外と日本では事情が異なるため一概に比較はできませんが、先進国の中で中絶率が高いのは確かです。そしてアフターピルの処方よりも中絶の件数が多いというのが日本の実情なのです。
アフターピルについて日本では試験的な動きがようやく出てきたところで、まだドラッグストアや薬局でほしいときにすぐ手に入る環境ではありません。女性が自分の意思で妊娠、及び避妊がしやすくなる日が、早くくるといいですね。
[注1]厚生労働省:平成29年度衛生行政報告例の概況[pdf]
[注2]厚生労働省:平成 29 年(2017)人口動態統計(確定数)の概況[pdf]
[注3]厚生労働省:要望された成分のスイッチ OTC 化の妥当性に係る検討会議結果について [pdf]
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※2023年4月時点の調査情報を元にしています。
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【中絶の費用について】
中絶手術の平均的な費用は、初期中絶で10~15万円、中期中絶で15万円~30万円と言われています。
もちろん、母体の状態やクリニックによって費用は変動しますので、一度問い合わせてみることをおすすめします。